1.チタン材にニッケルを施す、表面処理技術の開発

1983年頃、純チタン眼鏡枠用の設備を持っていない組立てメーカーより、従来のロー付け機でロー接するために、「チタン表面をめっき処理にてニッケルで覆うことはできないか?」と依頼がありました。その当時、純チタンの専用スポット溶接機やロー付け機は高額であり、それらを持つメーカーは限定されている時代でした。そこで、湿式めっきでニッケルをチタン材表面に付ける新方式を開発することになったのです。

2.ニッケルめっきが剥離!問題発生

当初、化学処理を行いチタン表面の酸化皮膜を除去後、応力の少ないニッケルめっきを施しました。そして、密着力を高めるために熱拡散処理をし、さらにニッケルめっきを15~20μm付けました。そうすることで、ニッケルめっきが施されたチタン材を、組立てメーカーでロー付けし、研磨、組立てができるようになったのです。

しかし、ロー付け条件の不適正や研磨過剰によりニッケルめっき層が取れるという問題が発生。組立てメーカー側と話を重ねる中、ニッケルめっきを行う前に、出来るだけチタン材表面からキズを除去した滑らかな状態にし、さらにバフ研磨を行うことによって、ニッケルめっき後の研磨工程を減らしました。また、ロー接加熱温度が、ニッケルの溶解温度を超えないようにするなどの技術指導を行い、翌1984年に、上記の問題は解決していきました。

3.新技術「ニッケルめっき式」の誕生へ

このニッケルめっきは、装飾用の表面処理の方法として開発されたものではなく、接合のための一方法です。小型スポット溶接機でのロー付けによる純チタンの直接接合方式と、ほぼ同時期に開発し利用されました。業界では、最終の装飾用貴金属めっきとしての表面処理との混同を避けるため、接合法としての「スポット式」(小型スポット溶接機によるチタン材直接ロー付け)と対比して、「ニッケルめっき式」(既存ロー付け機による厚付けニッケルめっき後のロー付け)と名付けられました。

また、このニッケルめっきの方法は「厚付け方式」とも呼ばれ、その後も改良されながら今日まで続いています。

また、チタン眼鏡枠用の設備を持たない、国内市場向けの組立てメーカーや輸出用眼鏡枠専門組立てメーカーは、この方式でリム線(レンズを囲むフレーム部分)とテンプル(レンズからこめかみを経由して、耳にかける部分)にチタンを使用し、チタン眼鏡枠の出荷が可能になりました。

これらの方式で製造された眼鏡枠は「ミックスチタン枠」と呼ばれ、当時純チタン眼鏡枠は非常に高額な工場出荷額でしたが、半値以下での製造も可能にしました。

4.チタン材へ金めっきを施す、「直付け式」の誕生へ

1985年から、チタン材への金の直付けめっきが開発されました。それ以前は、厚付けニッケルをベースとしためっきを施していましたが、チタンとニッケルによる電位差腐食が発生するために長期間使用するとめっきが膨らんできたり割れたり錆びたりしていました。何とか電位差の大きいニッケルを使わずに、チタン材へのめっきが出来ないか研究を進めました。

チタン材は、ニッケルまたは金以外のめっきでは密着を上げることが出来ないということが、様々な金属めっきをテストする中でわかりました。そこで、金めっきを直接施す方法として、チタンに湿式めっきで金のストライクめっきを付けた後、オーブンで大気中での熱処理をし、チタンと金の熱拡散層を生成し密着強度を増加させ、その上に従来の湿式めっき方式で金やパラジウムなどの貴金属めっきを施すという原理です。

しかし、開発途中では光沢が十分でなく曇った状態で仕上がったり、テンプルを曲げると剥離したりするなど様々な問題が生じましたが、この方式によって基本的にはチタンへの湿式めっきが完成しました。後にこの方式は「直付け式」と呼ばれました。

その後ベータ・チタンなどの様々なチタン合金が眼鏡枠に使用され、その材料ごとに密着性や光沢が変わるので、その素材にあった処方を開発しながら今日に至っています。

5.工業用・装飾用に適したチタン材へのめっき技術開発へ

その後1987年(昭和62年)から、ニッケルめっきの「薄付け方式」あるいは「後はがし方式」と呼ばれる方式が開発されました。この方式は、まずチタン部品に2~3μmの光沢の無いニッケルめっきを施し、熱拡散処理後、その部品をロー付けします。その後、めっき工場で化学処理によってニッケルめっきを剥離した後、組立てメーカーで研磨、組立てを行います。最後に、再度チタン表面に直接ニッケルめっきを施し、同様に熱拡散処理をした後、通常の湿式めっきをするというものでした。

こうしてニッケルによるチタン材へのめっきは、チタン材を既存のロー付け法で接合するための産業表面処理であると同時に、装飾表面処理の下地めっきとしても利用されるようになり、業界でのチタン眼鏡枠ならびにチタン材の普及と発展に大きく貢献しました。

※参考文献
福井県立大学大学院 経済・経営学研究科 経済研究専攻 博士後期課程 山本潤氏の平成25年度 博士論文「福井産地に於けるチタン眼鏡枠開発技術革新史」第5章 チタン眼鏡枠製造の関連技術の開発